がんの在宅療養で訪問診療は受けられる?知っておきたいポイント
1.がんの在宅療養とは?自宅で過ごすという選択肢
がんの在宅療養とはどのようなものか
がんの在宅療養とは、病院への通院や入院だけに頼るのではなく、医師や看護師などの支援を受けながら、ご自宅で必要な医療やケアを受けて生活することです。
通院が難しくなった場合には、医師が計画的に自宅を訪問する「訪問診療」を利用し、定期的な診察や薬の処方、症状の管理などを受けられる場合があります。また、訪問看護や介護サービスなどを組み合わせることで、医療と生活の両面から療養を支えることも可能です。
在宅療養は、治療を諦めることや医療を受けなくなることを意味するものではありません。病状や治療方針、ご本人・ご家族の希望を踏まえながら、住み慣れた自宅で過ごすための医療体制を整えていく選択肢の一つです。
入院治療と在宅療養の違い
入院治療と在宅療養では、医療を受ける場所だけでなく、受けられる医療の内容や生活環境にも違いがあります。入院中は医療スタッフがいる環境で、検査や手術、抗がん剤治療など、病院でなければ行うことが難しい治療を受けられます。
一方、在宅療養では、訪問診療や訪問看護などを利用しながら、自宅で日常生活を送りつつ必要な医療やケアを受けます。病状に応じて、痛みや吐き気、息苦しさなどの症状を和らげる緩和ケアを自宅で行える場合もあります。
ただし、すべての検査や治療を自宅で行えるわけではありません。専門的な検査や入院治療が必要になった場合には病院と連携するなど、状態に応じて在宅医療と病院医療を組み合わせていくことが大切です。
自宅療養を考え始めるタイミング
がんの在宅療養は、病状が進行してから初めて検討するものとは限りません。「通院するだけで疲れてしまう」「退院後も継続的な医療管理が必要」「できるだけ自宅で過ごしたい」と感じ始めた段階から、訪問診療について相談することができます。
特に、体力が低下して通院が難しくなってきた場合や、痛み・食欲低下・息苦しさなどの症状を継続して管理する必要がある場合は、在宅医療を検討する一つの目安です。
また、退院後に訪問診療を希望する場合には、退院前から病院の主治医や地域連携部門、訪問診療を行う医療機関などへ相談しておくと、必要な支援を準備しやすくなります。
自宅療養を希望するか迷っている段階でも、まずは相談し、ご本人とご家族に合った療養方法を検討することが大切です。
2.がん患者さんも訪問診療を利用できる?
訪問診療の対象となる方
訪問診療は、病気や身体機能の低下などにより、医療機関へ継続して通院することが難しい方を対象に、医師が定期的に自宅などを訪れて診療を行う仕組みです。がん患者さんも、通院が困難な状態で在宅での継続的な医療が必要と判断されれば、訪問診療を利用できる場合があります。
例えば、体力が低下して外出が負担になっている方、痛みや息苦しさなどの症状があり自宅での管理を希望する方、介助がなければ通院が難しい方などが検討の対象となります。年齢やがんの種類だけで利用の可否が決まるわけではなく、病状や身体の状態、生活環境などを踏まえて判断されます。
「まだ通院できるから早い」と決めつけず、通院の負担が大きくなってきた段階で相談することが大切です。主治医や訪問診療を行う医療機関へ、現在の状況を伝えてみましょう。
がん治療中・治療後でも利用できる場合
訪問診療は、がんに対する積極的な治療をすべて終えた方だけが利用するものではありません。抗がん剤治療や放射線治療などを病院で受けながら、日常的な体調管理や症状への対応を訪問診療で行うなど、病院への通院と在宅医療を組み合わせられる場合があります。
また、がん治療後に体力低下や食欲不振、痛みなどが続き、定期的な医療管理が必要な方も対象となることがあります。ただし、治療内容や病状によって必要な医療体制は異なるため、病院の主治医と訪問診療を担当する医師との情報共有が重要です。
がん治療と訪問診療は必ずしも二者択一ではありません。「治療を続けながら自宅で過ごしたい」という希望がある場合も、現在の治療計画を踏まえて利用できる医療や支援について相談してみましょう。
退院後から訪問診療へ移行するケース
入院中の治療によって状態が落ち着き、自宅での生活を希望する場合には、退院後から訪問診療へ移行することがあります。特に、退院後も痛みなどの症状管理や服薬管理、医療処置、全身状態の継続的な確認が必要な方では、退院前から在宅医療の体制を整えておくことが重要です。
病院の主治医や退院支援部門、医療ソーシャルワーカーなどと相談し、診療情報を訪問診療の医師へ共有することで、入院中の治療内容を踏まえた在宅療養につなげやすくなります。また、必要に応じて訪問看護や薬剤師、ケアマネジャーなどとも連携し、ご本人とご家族を支える体制を検討します。
「退院してから探せばよい」と考えるのではなく、自宅療養を希望した段階で早めに相談し、退院後の医療や介護について準備を進めておくことが大切です。
3.がんの在宅療養で訪問診療が担う役割

定期的な診察と全身状態の確認
がんの在宅療養では、定期的に医師が診察し、病状や体調の変化を継続して確認することが重要です。訪問診療では、医師があらかじめ立てた診療計画に沿って自宅を訪問し、痛みや息苦しさ、食欲低下、吐き気、便通の変化、むくみなどの症状に加え、血圧や脈拍、呼吸状態などを確認します。
がん患者さんの体調は、病気そのものだけでなく、治療の影響や栄養状態、活動量などによって変化することがあります。そのため、一つの症状だけを見るのではなく、日常生活の様子も含めて全身状態を把握することが大切です。
必要に応じて検査や治療内容の見直し、病院との連携を行いながら、自宅療養を継続できるよう医療面から支えていきます。
お薬の処方・管理と症状への対応
がんの在宅療養では、痛みをはじめ、吐き気、便秘、息苦しさ、不眠など、さまざまな症状への対応が必要になることがあります。訪問診療では、自宅での症状や服薬状況を確認しながら、必要に応じて薬の処方や種類・量の調整を行います。
がんによる痛みに対しては、一般的な鎮痛薬だけでなく、病状に応じて医療用麻薬を使用することもあります。医療用麻薬は、痛みの程度や副作用を確認しながら適切に使用することが重要です。また、飲み込みにくさなどによって内服が難しくなった場合には、患者さんの状態に合わせて投与方法を検討することもあります。
症状を我慢し続けるのではなく、変化がみられた段階で医師や看護師へ伝えることが、適切な対応につながります。
ご本人・ご家族の療養生活を支える相談
がんの在宅療養では、医療的な管理だけでなく、ご本人やご家族が抱える不安について相談できる環境も重要です。「これから体調がどう変化するのか」「自宅でどこまで過ごせるのか」「急に具合が悪くなったらどうすればよいのか」など、療養生活を続ける中ではさまざまな悩みが生じます。
訪問診療では、病状や治療方針について説明するとともに、ご本人がどのような生活を希望しているのか、ご家族がどの程度の支援を行えるのかなども確認しながら療養方針を考えます。
必要に応じて訪問看護師やケアマネジャー、薬剤師、介護職、病院などと情報を共有し、支援体制を調整することも重要です。ご家族だけで負担を抱え込まず、早い段階から医療・介護の専門職へ相談することが、無理のない自宅療養につながります。
4.自宅ではどこまで医療を受けられる?

採血・点滴など在宅で行える医療
がんの在宅療養では、患者さんの状態や必要性に応じて、診察だけでなく採血や点滴などの医療を自宅で受けられる場合があります。採血では、貧血の程度や肝機能・腎機能、炎症の有無などを確認し、病状や治療による全身状態の変化を把握するために役立てます。
また、食事や水分を十分に摂れない場合などには、医師が必要と判断したうえで点滴を行うこともあります。このほか、薬の処方や疼痛管理、褥瘡(床ずれ)の処置など、患者さんの状態に合わせたさまざまな医療が在宅で検討されます。
ただし、自宅で行える処置は患者さんの病状や医療機関の診療体制によって異なります。訪問診療を始める際には、現在必要としている医療を自宅で継続できるか、あらかじめ医師へ確認しておくことが大切です。
在宅酸素や医療機器を使用する場合の管理
がんの進行や呼吸器の状態などによっては、自宅療養中に在宅酸素療法をはじめとした医療機器が必要になることがあります。在宅酸素療法は、血液中の酸素が不足する状態に対して、医師の指示のもと自宅で酸素を吸入する治療です。
導入後は、酸素の流量や使用時間を自己判断で変更するのではなく、医師の指示に沿って適切に使用することが重要です。また、患者さんによっては尿道カテーテルなどの医療器具を使用しながら自宅療養を行うこともあります。
訪問診療では、医師や訪問看護師などが連携し、機器の使用状況や体調の変化を確認しながら療養を支えます。機器のトラブルや息苦しさの悪化などがみられた場合には、早めに医療者へ相談することが大切です。
自宅で対応が難しく病院での診療が必要になるケース
訪問診療を利用していても、すべての検査や治療を自宅で行えるわけではありません。CT・MRIなどの画像検査、内視鏡検査、手術や一部の専門的な治療などが必要な場合には、病院や専門医療機関での診療が必要になります。
また、急激な呼吸困難や意識状態の変化、大量の出血など、緊急性が高い症状がみられる場合には、患者さんの状態に応じて救急搬送や入院が検討されます。
在宅療養を選択することは、「何があっても自宅だけで治療を続ける」という意味ではありません。自宅で対応できる医療と病院で受けるべき医療を適切に使い分けることが重要です。
あらかじめ急変時の連絡方法や、入院が必要になった場合の対応について医療者と相談しておくことが、ご本人やご家族の不安軽減にもつながります。
5.がんの痛みやつらい症状を和らげる緩和ケア

緩和ケアは終末期だけの医療ではない
緩和ケアというと、「治療ができなくなったときに受ける医療」「人生の最終段階で受けるもの」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、緩和ケアは終末期だけを対象とするものではなく、がんと診断された時点から、必要に応じて治療と並行して受けることができます。
目的は、がんそのものを治療することだけではなく、痛みや息苦しさなどの身体的なつらさ、不安や気持ちの落ち込み、生活上の困りごとなどを和らげ、患者さんとご家族の生活の質を支えることです。がんの在宅療養でも緩和ケアは重要な役割を担います。
「まだ緩和ケアを受ける段階ではない」と考えず、つらい症状や生活上の不安が生じたときには、早い段階から医師や医療スタッフへ相談することが大切です。
痛み・息苦しさ・吐き気などへの対応
がんの在宅療養では、痛みだけでなく、息苦しさ、吐き気や嘔吐、食欲低下、便秘、だるさ、不眠など、さまざまな症状が現れることがあります。緩和ケアでは、症状の原因や程度、患者さんの全身状態などを確認しながら、薬物療法をはじめとした適切な方法を検討します。
例えば、がんによる痛みには鎮痛薬を症状に応じて使用し、必要な場合には医療用麻薬が選択されることもあります。医療用麻薬は、適切な評価と管理のもとで使用することが重要です。また、息苦しさや吐き気についても原因を確認し、それぞれに応じた治療やケアを行います。
つらい症状を我慢し続ける必要はありません。痛みや呼吸のつらさなどが強くなった場合や、これまでと異なる症状が現れた場合には、早めに訪問診療の医師や看護師へ伝えることが大切です。
精神的な不安やご家族への支援も大切
がんの在宅療養で生じるつらさは、身体症状だけではありません。患者さんは「これから病状がどうなるのだろう」「家族に負担をかけたくない」といった不安を抱えることがあり、ご家族も「自宅で支えられるだろうか」「急に具合が悪くなったらどうすればよいのか」と悩むことがあります。
緩和ケアでは、身体的な症状だけでなく、心理的・社会的な問題も含めて支援することが大切にされています。在宅療養では、医師や訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどが必要に応じて連携し、患者さんだけでなくご家族も含めた療養環境を整えていきます。
介護するご家族が無理を重ねると在宅療養の継続が難しくなることもあるため、不安や負担を抱え込まず、困りごとが生じた段階で医療・介護の専門職へ相談することが重要です。
6.がんの在宅療養を支える多職種連携
訪問診療医と訪問看護師の役割
がんの在宅療養では、訪問診療医と訪問看護師がそれぞれの専門性を活かしながら連携し、患者さんの生活を支えていきます。訪問診療医は定期的に自宅を訪問し、病状の確認や薬の処方、痛み・息苦しさ・吐き気などの症状に対する治療や医療的な判断を行います。
一方、訪問看護師は医師の指示などに基づき、体温・血圧・呼吸状態などの確認、必要な医療処置、療養生活に関する支援を行います。日常的に患者さんと接する中で把握した変化を医師と共有することも重要な役割です。
がんの状態は変化することがあるため、医師と看護師が情報を共有し、必要に応じて対応を見直すことが、自宅で療養を続けるうえで大切になります。
ケアマネジャー・薬剤師・介護職との連携
がんの在宅療養では、医療だけでなく、食事や排泄、入浴、移動、服薬など日常生活を支える視点も欠かせません。介護保険を利用する場合、ケアマネジャー(介護支援専門員)は本人や家族の希望、身体状況などを踏まえてケアプランを作成し、必要な介護サービスの調整を行います。
薬剤師が自宅を訪問する場合には、処方された薬の管理や飲み方の確認、副作用や残薬の確認などを行い、必要な情報を医師などと共有します。訪問介護などの介護職は、食事・排泄・入浴などの日常生活を支援します。
多職種が情報を共有することで、病状だけでなく生活全体を見ながら支援しやすくなります。また、こうした連携は、ご家族だけに介護や療養の負担が集中することを防ぐことにもつながります。
病院の主治医と在宅医療をつなぐ仕組み
がんの在宅療養へ移行する際には、これまで治療を担当してきた病院と、訪問診療を担う在宅医療チームとの情報共有が重要です。退院時には、がんの診断やこれまでの治療内容、使用している薬、今後予想される症状、必要な医療処置などを確認し、在宅での診療につなげていきます。
病院では地域連携室や医療ソーシャルワーカーなどが、訪問診療や訪問看護の導入に向けた調整を担うこともあります。また、自宅療養を始めた後も、専門的な検査や治療、入院が必要になれば、病院と連携して対応を検討します。
在宅療養を選んだからといって、病院との関係がなくなるわけではありません。病院と在宅医療が役割を分担し、その時々の状態に応じて必要な医療につなげることが、継続的な療養を支える重要な仕組みです。
7.急変や入院が必要になったときはどうする?
在宅療養中に起こり得る体調変化
がんの在宅療養では、病状の進行や治療の影響などによって、体調が変化することがあります。例えば、痛みが強くなる、発熱する、食事や水分を取りにくくなる、吐き気が続く、息苦しさが現れる、意識の状態が変わるといった症状です。
また、これまでできていた動作が難しくなるなど、生活面の変化が病状を知る手がかりになることもあります。こうした変化がすべて緊急事態を意味するわけではありませんが、普段との違いを早めに把握することが大切です。
訪問診療では、定期的な診察を通じて全身状態を確認するとともに、必要に応じて治療や薬の内容を調整します。症状が急激に悪化した場合や、強い呼吸困難、意識障害などがみられる場合には、速やかな医療的判断が必要です。迷ったときに相談できる連絡先や対応方法を、あらかじめ確認しておきましょう。
夜間・休日を含む緊急時への備え
がんの在宅療養を続けるうえでは、夜間や休日に体調が変化した場合の対応を事前に確認しておくことが重要です。在宅では医療従事者が常にそばにいるわけではないため、「どのような症状が出たら連絡するのか」「夜間はどこへ電話するのか」「救急車を呼ぶべき状況は何か」などをご本人・ご家族と医療チームで共有しておくと、急な変化にも対応しやすくなります。
訪問診療を行う医療機関によって、夜間・休日の連絡方法や往診の可否、緊急時の対応体制は異なります。利用を始める際に、夜間・休日を含む具体的な対応の流れを確認しておくことが大切です。
また、普段使用している薬、病名、かかりつけの医療機関、緊急連絡先などを整理しておくことも大切です。特に強い呼吸困難や意識障害など緊急性が高い状態では、状況に応じて救急要請が必要になることがあります。
必要に応じて病院へつなぐという考え方
訪問診療を利用しているからといって、すべての診療を自宅だけで完結させる必要はありません。がんの在宅療養中でも、詳しい検査や専門的な処置、入院による治療が必要と判断された場合には、病院での診療へつなぐことがあります。
例えば、自宅では対応が難しい症状が現れた場合や、急激な全身状態の悪化がみられる場合には、訪問診療を担当する医師が状態を確認し、必要に応じて病院への受診や入院を検討します。一方で、入院によって症状が落ち着いた後に、再び訪問診療を利用しながら自宅療養へ戻ることが可能な場合もあります。
在宅療養と入院は、どちらか一方だけを選ぶものではありません。ご本人の病状や希望、ご家族の状況を踏まえて、適切な療養場所を検討することが大切です。自宅で過ごすことにこだわりすぎず、その時々に必要な医療を選択していくことが重要です。
8.がんの在宅療養を始める前に知っておきたいこと
退院前から準備しておきたい医療・介護体制
がんの在宅療養を希望する場合は、退院してから準備を始めるのではなく、できるだけ退院前から必要な医療・介護体制を整えておくことが大切です。
病院の主治医や退院支援部門などに自宅療養の希望を伝え、訪問診療を担当する医師や訪問看護師、ケアマネジャーなどと情報を共有しておくと、退院後の生活へ移行しやすくなります。また、使用している薬や必要な医療処置、緊急時の連絡先、介護サービスの利用についても確認しておきましょう。
がんの状態や生活環境によって必要な支援は異なるため、ご本人とご家族だけですべてを準備する必要はありません。「自宅で過ごしたいけれど何を準備すればよいかわからない」という段階から医療機関へ相談し、支援者と一緒に療養環境を整えていくことが重要です。
訪問診療の費用と医療保険の基本
がんの在宅療養で利用する訪問診療は、通院が困難で医学的に必要と認められる場合、原則として医療保険の対象となります。実際の自己負担額は年齢や所得による負担割合のほか、訪問回数、診療内容、検査や処置、緊急時の往診などによって異なります。
また、訪問看護や介護サービスを利用する場合には、患者さんの状態やサービスの種類に応じて医療保険または介護保険が適用されるため、訪問診療の費用だけでなく、在宅療養全体に必要な費用を確認しておくことが大切です。
医療費が一定額を超えた場合には、高額療養費制度などを利用できることもあります。費用への不安から在宅療養を諦めるのではなく、利用できる制度も含めて医療機関や相談窓口へ事前に確認しておくと安心です。
ご本人とご家族で希望を共有しておくこと
がんの在宅療養では、医療体制を整えるだけでなく、ご本人がどのように過ごしたいのかをご家族や医療・介護スタッフと共有しておくことも重要です。
「できるだけ自宅で過ごしたい」「症状が悪化した場合には入院を希望したい」など、療養場所や治療に対する考え方は一人ひとり異なります。また、病状が変化すると、ご本人の希望も変わる可能性があります。そのため、一度決めた内容を固定するのではなく、体調や気持ちの変化に合わせて繰り返し話し合うことが大切です。
こうした意思決定を支える取り組みは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とも呼ばれます。すべてを最初から決める必要はありません。話しにくい内容だからこそ、医師や看護師などにも相談しながら、ご本人が大切にしたいことを少しずつ共有していきましょう。
9.がんの在宅療養を支える|かなまち慈優クリニックの訪問診療
がん・緩和ケアに対応する訪問診療体制
がんの在宅療養では、病状の変化を確認するだけでなく、痛みや息苦しさ、吐き気、食欲低下など、療養生活の中で生じるさまざまな症状に対応していくことが重要です。かなまち慈優クリニックでは、通院が難しいがん患者さんへの訪問診療を行い、ご自宅での療養を支えています。
定期的に医師が訪問して全身状態を確認し、必要に応じて薬の処方や症状を和らげるための治療・調整を行います。また、緩和ケアは人生の最終段階だけに行うものではなく、がん治療と並行して必要となる場合もあります。
患者さんがどのように過ごしたいか、ご家族がどのような不安を抱えているかにも配慮しながら、病状や生活環境に応じた療養方法を一緒に検討していきます。
在宅での輸血を含む医療と専門性を活かした支援
がんや血液疾患のある方では、病状や治療の影響によって貧血や血小板減少などが生じ、輸血が必要になる場合があります。かなまち慈優クリニックでは、患者さんの状態や適応を慎重に判断したうえで、在宅での輸血にも対応しています。
輸血は副反応などへの注意が必要な医療行為であるため、すべての方に一律に行えるものではなく、病状や全身状態、療養環境などを踏まえた医学的な判断が欠かせません。在宅療養では、採血などによる状態確認を行いながら、必要な医療を検討していきます。
通院や入院そのものが大きな負担となっている方に対しても、血液内科を含む専門性を活かし、ご自宅でどのような医療を受けられるのかを患者さん・ご家族と相談しながら支援しています。
24時間365日の体制と地域医療機関・訪問看護との連携
がんの在宅療養を考える際、「夜間に痛みが強くなったらどうしよう」「休日に急変した場合はどうすればよいのか」と心配されるご家族も少なくありません。かなまち慈優クリニックでは、訪問診療を利用している患者さんの体調変化に備え、24時間365日の連絡・対応体制を整えています。
症状が変化した際には状態を確認し、必要に応じて往診や医療機関への受診・入院など、状況に応じた対応を検討します。また、在宅療養は医師だけで支えるものではありません。
訪問看護ステーションをはじめ、地域の医療機関や介護職などと情報を共有し、それぞれの役割を活かしながら支援することが重要です。患者さんとご家族が自宅での生活を続けられるよう、地域との連携を大切にしながら継続的な診療を行っています。
10.FAQ|がんの在宅療養・訪問診療でよくある質問
がん患者でも訪問診療を受けられますか?
がん患者さんでも、病状や体力の低下などによって通院が難しい場合には、訪問診療を利用できることがあります。訪問診療では医師が定期的に自宅を訪れ、全身状態の確認や薬の処方、症状に応じた医療管理などを行います。
がんの進行度だけで利用の可否が決まるわけではなく、通院の負担や生活状況などを含めて判断されます。「まだ訪問診療は早いのでは」と迷っている段階でも、通院が負担になってきた場合は医療機関へ相談してみるとよいでしょう。
抗がん剤治療中でも訪問診療は利用できますか?
抗がん剤治療を受けている方でも、状況によっては訪問診療を併用できる場合があります。例えば、抗がん剤治療そのものは病院で受けながら、自宅では訪問診療によって体調管理や症状への対応を行うといった方法です。
ただし、治療内容や病状によって適切な医療体制は異なるため、病院の主治医と訪問診療医との情報共有が重要です。通院による疲労が強くなった場合や、自宅での体調管理に不安を感じ始めた場合には、主治医や地域連携部門などへ相談することが一つの目安になります。
がんの痛みは自宅でも治療できますか?
がんによる痛みは、自宅療養中でも状態を評価しながら薬物療法などによって和らげることができます。緩和ケアでは、痛みの強さや原因を確認し、鎮痛薬などを用いて症状の緩和を図ります。必要に応じて薬の種類や量、使用方法を調整することもあります。
緩和ケアは終末期だけに行うものではなく、がん治療中から取り入れることができます。痛みを我慢し続ける必要はありませんので、痛みが強くなった、薬を使ってもつらいといった場合は早めに医師へ相談することが大切です。
自宅で点滴や採血を受けることはできますか?
訪問診療では、患者さんの病状や必要性、療養環境などを確認したうえで、自宅で採血や点滴を行える場合があります。採血によって貧血や炎症、肝機能・腎機能などを確認したり、医学的に必要と判断された場合に点滴を行ったりすることがあります。
ただし、病院と同じ検査や処置をすべて自宅で行えるわけではありません。詳しい検査や入院管理が必要な場合には、病院での診療が選択されます。どこまで自宅で対応できるかは病状によって異なるため、訪問診療を開始する際に確認しておきましょう。
在宅療養中に急に体調が悪くなったらどうなりますか?
在宅療養中に急な体調変化が起きた場合は、まず訪問診療を担当する医療機関へ連絡し、症状を伝えて指示を受けることが基本です。状態に応じて電話での対応、臨時の往診、救急搬送や入院などが検討されます。ただし、明らかに生命の危険が疑われる場合など、状況によっては救急要請が必要です。
がんの在宅療養を始める際には、発熱や痛み、呼吸困難などが生じたときの連絡先と対応方法を、あらかじめ確認しておくことが重要です。
夜間や休日でも相談できますか?
夜間や休日の相談体制は、訪問診療を行う医療機関によって異なります。24時間連絡できる体制を整えている医療機関では、夜間や休日に体調が変化した際にも相談し、必要な対応について指示を受けられます。
ただし、「24時間対応」が常にすぐ自宅へ往診することを意味するわけではありません。症状や緊急性を確認したうえで対応方法が判断されます。訪問診療を利用する前に、夜間・休日の連絡先や往診の条件、救急搬送が必要な場合の流れまで確認しておくと安心です。
一人暮らしでもがんの在宅療養はできますか?
一人暮らしでも、病状や生活状況、利用できる支援体制によっては、がんの在宅療養を続けられる場合があります。ただし、食事や服薬、移動などに支援が必要な方や、急な体調変化の可能性が高い方では、訪問看護や介護サービスなどを組み合わせることが重要です。
一人暮らしだからという理由だけで在宅療養を諦める必要はありません。安全に生活できる環境を整えられるかを個別に検討する必要があるため、自宅での生活に不安がある場合は、早めに医師やケアマネジャーなどへ相談しましょう。
在宅療養から入院へ切り替えることはできますか?
訪問診療を始めた後でも、病状やご本人の希望に応じて入院治療へ切り替えることは可能です。在宅療養を選択したからといって、最後まで必ず自宅で過ごさなければならないわけではありません。
自宅では対応が難しい検査や治療が必要になった場合や、症状のコントロールが難しくなった場合などには、入院が検討されます。また、入院後に状態が落ち着けば、再び自宅療養へ戻ることができる場合もあります。病状や希望が変わったときは、その都度主治医と相談して療養場所を検討することが大切です。
自宅で最期まで過ごすことはできますか?
ご本人が希望し、病状や生活環境、医療・介護の支援体制が整えば、自宅で看取りまで過ごすことが選択肢となる場合があります。在宅での看取りでは、痛みや息苦しさなどの症状を和らげる緩和ケアを行いながら、ご本人ができるだけ穏やかに過ごせるよう支援します。
ただし、自宅で過ごすことだけが正解ではありません。ご本人やご家族の希望、介護負担、症状などによって適した療養場所は変わります。「自宅で過ごしたい」という希望がある場合は、状態が悪化する前から医療者へ伝えておくことが大切です。
がんの訪問診療を希望する場合はいつ相談すればよいですか?
訪問診療は、通院が完全にできなくなってからではなく、通院の負担が大きくなってきた段階から相談できます。例えば、病院へ行くだけで強く疲れる、退院後の生活に不安がある、痛みなどの症状管理を自宅でも受けたいといった場合は、相談を検討するタイミングです。
入院中であれば主治医や地域連携部門、医療ソーシャルワーカーなどに相談し、退院前から在宅療養の準備を進める方法もあります。
病状が急に変化してからではなく、今後の療養について考え始めた段階で相談しておくことが、希望に沿った医療体制を整えることにつながります。

